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立命館大学2015年度WS「ダークツーリズム研究の新地平―ダークネスを射つ」

立命館大学人文科学研究所重点プロジェクト「グローバル化とアジアの観光」主催
2015年度ワークショップ
「ダークツーリズム研究の新地平――ダークネスを射つ」

11月8日(日)
13:00~17:30
キャンパスプラザ京都・6階・第1講義室(立命館大学)

プログラム(予定)  以下、敬称略
1.開催の挨拶
(藤巻正己:立命館大学文学部)
2.主催者による趣旨説明
(遠藤英樹:立命館大学文学部)
3.報告
(1)木村 至聖(甲南女子大学人間科学部)
産業(遺跡)観光において観るべき“闇”とは何か?
What do we see in the industrial dark tourism?
今年(2015年)、ドイツのボンで開催されたユネスコ世界遺産委員会で、「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された。今回何よりも注目されたのは隣国韓国が植民地時代に朝鮮人労働者が強制徴用された施設を含むとして、大々的な登録反対活動を行なったことである。これに対し日本は、「強制徴用」の事実や内容に踏み込むことなく、今回の遺産のテーマとは対象となる時代が異なると主張し、審議直前まで両者の平行線は続いた。このことにより、図らずも歴史の“光”と“闇”というテーマがあらためて意識されることになったわけだが、今後こうした近代の産業遺産を対象とした観光が展開していく場合、そこで表象される“光”と“闇”とは実際いかなるものでありうるのか。たとえば“闇”の側だけをとっても、実は強制徴用以外にも様々な要素が挙げられるだろう。このように本報告では、産業遺跡におけるダークツーリズムの多面的な様態について紹介し、その社会的意義について検討したい。
キーワード:世界遺産、産業遺産、ダークツーリズム
Keywords: World Heritage、Industrial Heritage、Dark Tourism

(2)須永 和博(獨協大学外国語学部)
他者化から共感へ
――釜ヶ崎のまちスタディ・ツアーを事例として――
From Othering to Sympathy: A Case Study of Kamagasaki Study Tour in Osaka
ダーク・ツーリズムとは、単に負の記憶が埋め込まれた場所を訪ねるだけでなく、悲しみや悼みを当事者らと「共有」・「共感」する観光形態であるとされている。しかし、従来の観光研究では、文化的差異が観光のまなざしの前提とされ、「見る側」と「見られる側」の切断・固定化、すなわち「共感」の実現困難性もまたしばしば指摘されており、ダーク・ツーリズムもその例外ではない。もしそうであるならば、自己/他者間の固定化・切断に抗して、自他混融や「共感」といった地平がいかに生成しうるのかということを、具体的な民族誌的資料を用いて明らかにすることは、ダーク・ツーリズム研究の重要な課題の1つといえよう。
本発表では、以上のような問題意識を踏まえた上で、大阪・ 釜ヶ崎で行われている「釜ヶ崎のまちスタディ・ツアー」 の事例を紹介する。「貧困」が観光のまなざしの対象となるスラム・ツーリズムの事例から、自己/他者間の固定化・切断という問題を乗り越え、自他関係の混融という「共感」の地平が立ち現れる可能性について考えてみたい。
キーワード:他者化、共感、スラム・ツーリズム、釜ヶ崎
Keywords: Othering、sympathy、slum tourism、Kamagasaki (Osaka)

(3)須藤 廣(法政大学大学院政策創造研究科)
観光消費社会におけるダークツーリズムの意味を問う
――「リアリティへの飢え」と悲しみの共有との狭間で――
Searching for the Meanings of Dark Tourism in Tourism Consumption Society : Between ‘Thirst for Reality’ and Sharing of Grief
ダークツーリズム消費の特徴は、「楽しむ」快楽ではなく、「悲しむ」快楽にある。日常世界のなかで、死や他者の「悲しみ」に立ち向かう制度を欠いて生きる現代人は、同時に「生」の輪郭を失う傾向にあり、「悲しみの快楽」に向かうダークツーリズムのあり方は、「存在論的」な輪郭を失いながら生きる現代人の、「生」の充実を確認しようとするある種の反応といえる。
一方で、ダークツーリズムは、社会的トラウマを抱えて生きる、あるいは生きた人々に対する哀悼と共感に向けた回路を開くものでもある。近代観光が「観ること」を消費する観光であったのに対し、ダークツーリズムは「悲しみ」を消費しつつ、「共感」する観光であろうとする。「共感」する「現実」の環境のなかに入り込むことによって、観光者はトラウマを生きる他者や社会が語り出す、言葉にならない言葉に遭遇する。
観光は、現代社会における「疎外」に対する「反疎外」的消費という側面を持っており、ダークツーリズムもそのなかの一つである。あくまでも「観光」の文脈のなかにおける、ダークツーリズムの消費的側面と人間解放的側面との両義性について議論を深めたい。
キーワード:リアリティ、死の消費、社会的トラウマ、悲しみの共有、連帯
Keywords: reality, consumption of death, social trauma, sharing of grief, collectivity

4.ディスカッサントを含めた議論
神田孝治(和歌山大学観光学部)
薬師寺浩之(奈良県立大学地域創造学部)
中村香子(京都大学アフリカ地域研究資料センター)