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会長挨拶:立命館大学 名誉教授 藤巻正己

ご挨拶

2021年1月15日
観光学術学会 会長 藤巻正己

2020年7月の総会において、会長として選出された藤巻です。ご挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げます。

昨年は、新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックに苛まれ、日本国内で発症が初めて確認されてから、1年経過しました。しかも、終息の期待もむなしく、今なお、COVID-19の感染は拡大の一途をたどっています。この間、日常生活や、観光を含む経済社会活動のみならず、私どもの研究・教育の分野においても、コロナ禍という厄難は甚大な影響を及ぼし続けてきました。

昨年の7月、京都外国語大学にて開催を予定していた第9回大会は中止を余儀なくされ、評議員会・総会、そして会員の皆さまによる研究活動の成果発表も通常とは異なった形式で遂行せざるをえなくなりました。さらに、これまでのところ、理事会や各種委員会の活動もオンライン方式で執り行うことが常態化するに至っています。しかしながら、学会としての事業は遅滞なく円滑に実施されていることを、ここにあらためてご報告いたします。依然として先行き不透明な状況のなか、今後、平常通りの研究集会および大会、評議員会、総会の開催が実現できるか否かについては確約できませんが、この1年間の経験をふまえ、会員の皆さまの英知を集めつつ、新様式でのより充実した学会活動の実現を追求していきたいと思います。

さて、2012年に創設されて以来、本学会は、他の学術組織や社会との連携を重要な活動目標の一つとしてまいりましたが、コロナ禍にかかわって、さまざまな機関によって開催された「ウィズ/アフター・コロナ」をテーマとするシンポジウムやセミナーのプラットフォームとしての役割をはたすことができているものと確信しております。また、他の観光関連学会との連携により、観光学術学会としても、『「新型コロナウイルスと観光」「ポスト・コロナ時代の観光」への「観光学関連学会協議会・発足準備会委員」からの提言』(2020年10月19日)を発することができました。今後とも、さまざまなかたちで本学会の存在意義や役割を広く社会に発信していきたいと思います。

現在約430名の会員を擁する本学会は、本年を以て10周年を迎えることとなりましたが、会員の皆さまとともに、次の10年を目指した新たな事業計画を構想し、それらを実現していきたいと思います。当面の課題としては、昨年の総会においてご了承いただいた、本学会の将来構想に関わる橋本和也前会長からの諮問に対する答申内容の具体化に向けて着実に取り組んでいく所存です。会員の皆さまのご意見をたまわりつつ、適切な判断をし、円滑な学会運営に邁進していきたいと存じます。

最後に、2014年7月より2020年7月まで2期にわたって本学会の会長を担われた橋本和也先生の会長挨拶の全文を以下に再掲したいと思います。本会が成立するに至った経緯や本会がめざすところ(精神・目的)、そして観光学術学会ならではの特長など、私たちが今後とも共有し、継承してゆくべきことがらが、きめ細かく述べられているからにほかなりません。今後とも、本学会のさらなる発展のための指針としたいと思います。

1.様々な連携
観光学は様々な学問分野の総合的領域です。本観光学術学会は2012年2月26日に設立総会が開催され、立ち上がりました。それまでに私は、立命館の江口さん、藤巻さんなどが中心となった「貧困の文化と観光」研究会や、奈良県立大学の「観光研究会」、筑波大学の山中さんなどが中心となった「宗教と観光」研究会に参加させていただいておりました。私の知る限りこの3つの研究会が2000年代の日本で一番活発な観光研究の活動をしておりました。その3つの研究会の交流と発展を図ろうと、様々な企画になんどか応募を試みましたが、残念ながら採択されませんでした。そうした中で、2011年7月にいつものように奈良県立大の観光研究会に参加しました時の懇親会で、神田さんから遠藤さんと私にお声がかかり、「観光学術学会」を設立しようとの話になりました。
私の理解するところでは、2つの大きな目的がありました。1つは、採用審査などで学術論文として正当な評価を受ける論文を掲載する学術雑誌を刊行することでありました。観光系の学会は既にいくつかあるが、そこに掲載された論文の字数が足りず、論文として評価されないという不満が若手研究者から出ており、論文1本として評価される学会誌を刊行したいという学問的な目的がまずありました。
もう1つは、初代学会長大橋昭一先生への尊敬の念があふれたものでした。神田さんが大橋学部長の部屋へ行くといつも外国語の論文を読んでいて、その学問的熱意にうたれたそうです。その大橋先生を学会長にした新たな学会を立ち上げたいという神田さんの熱い思いに溢れた説得がありました。
私は、もともと東西の観光研究者を一堂に介した研究会を持ちたいと思っておりましたので、よろこんでその学会創設の企画に参画いたしました。そして今回3回大会を開催することができました。
学問的に正当な評価を受ける論文を掲載する学会誌を刊行するためには、編集委員会の努力と会員の皆様の貢献が必要です。これまで3号が出版され、4号も順調に出版予定でございます。今回の大会発表者による積極的な投稿をお待ちしております。
さて、今年4月25日付で、当初の目的でもありました「日本学術会議」の協力学術団体としての登録が、2年という比較的短い期間で、正式に認められました。学術会議への登録は我々の学会が学術研究を目指す団体であることを保証する一つの証でありますので、早い段階での承認を目指しておりました。そして学会員数が300名を越えました。学会として対外的に認められる条件が満たされたと考えることが出来ます。
日本学術会議への登録申請のための事情聴取に出かけたとき、「観光系の学会が沢山あって何かの機会に声をかけようとしても、どの学会に声をかければ良いのかわからない。なんとかならないか」というような意見があったと言います。先日総合観光学会の会長である山下さんからも、政府関係者から観光系学会の乱立についての懸念が示されており、学会間での話し合いが必要ではないかとの話が出ていると言っておりました。実は、我が観光学術学会の理事会でもこの観光系学会の統合についての話題は出ておりました。統合というような究極の形態は別にして、「観光系学会連絡会議」を設立する必要はあるのではないかと思います。学会として早めに方針を出し、連絡会議設立に関するイニシアティブを確保する必要があると考えております。

2.様々な「学問的連接」
観光学は総合的・学際的な学問であります。各学問領域の連携・連接についての学問的な発展可能性について話す必要を感じております。私が学問的訓練を受けた領域は文化人類学でありますので、総合的・学際的研究のあり方にはなじんでおります。政治人類学・経済人類学・歴史人類学・宗教人類学・社会人類学・文化人類学・教育人類学など様々な学問分野の名称が語頭についた人類学的研究が発展しており、院生時代には各領域の基礎を一通り勉強することが前提とされておりました。観光事象はますます発展しております。古典的な形式分類としては、歴史・民族・レジャー・環境・文化観光が、さらには近年発達してきたエコ・ツーリズム、ヘリテージ・ツーリズム、グリーン・ツーリズム、そしてコンテンツ・ツーリズムなどが出現しております。これらの事象を分析する理論の領域としては、まだ成立を見ておりませんが、政治・政策観光学、経済・経営観光学、歴史観光学、そして宗教観光学、社会観光学、文化観光学、さらには教育観光学、情報観光学、交通観光学などの分野が切り開かれ、かつ分野を相互に横断する連携的・統合的研究の発展が望まれます。現在成立しつつある観光学を基礎にしながら、様々な学問的領域の研究が強調される形で発展し、かつ相互に理解・翻訳可能な学問的用語が成立することを願っております。若い世代の観光学研究者が修業時代にこれらの分野をまず学び、相互に理解可能な用語で議論をまじえるようになることを望んでおります。
全体的な観光学を目指しながら、各部分においての観光研究を徹底的に実践するという研究は、部分的連接を試みながら、全体(観光学)を目指すことだと思います。各分野の研究者が集まって、同じ観光事象について議論し合うこの観光学術学会のシンポジウムや、研究会がその機会になると信じております。

平成26年7月6日
観光学術学会 会長 橋本 和也