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「新型コロナウイルスと観光」「ポスト・コロナ時代の観光」への「観光学関連学会協議会・発足準備会委員」からの提言

2020年10月19日
観光学術学会 理事会

「新型コロナウイルスと観光」「ポスト・コロナ時代の観光」への
「観光学関連学会協議会・発足準備会委員」からの提言

 

「観光学研究の推進」を目的として掲げる「観光学関連学会協議会・発足準備会」に参集した学会(日本観光研究学会、観光学術学会、日本観光学会、日本ホスピタリティ教育学会、総合観光学会、日本観光経営学会)の委員からの、「新型コロナウイルスと観光」「ポスト・コロナ時代の観光」についての、行政、地域、企業関係の人びと、研究者・学生、そして多くの観光者への提言である。

 

内から外への観光の取り組み  吉兼秀夫(日本観光研究学会・元会長)

観光は、日常から離れて非日常(異日常)を近未来として尋ね、将来こうありたいと思い、受け入れる地域は観光客を鏡に日常を点検し、これで良い(良くない)と評価する装置といえる。コロナ感染による移動の制約は、この装置を機能不全にしたが、そのかわり地域住民による自己点検の絶好の機会を与えた。「近場型観光」により地域文化を改めて体験し、その価値を再認識し誇りをもって暮らすエネルギーを得る機会である。その上で、来るべき来訪者に自信を持って迎える心が醸成される。内から外に向かって観光は再開していくことになろう。外に向かっては「帰省型観光」から始めることを推薦したい。相互に敬意を持った出自のわかる対象が訪ね・受け入れる観光である。長年にわたり繰返し来てくださる顧客もそのうちに入る。受け入れられた彼らはその喜びを伝えたくて口コミ(SNSでも)で知らせ、仲間を連れてくるだろう。精神的な意味で「内から外」に拡大するのである。

密への不安は「屋外」をキーワードにするが、私に唐突に「宇宙旅行」を期待させる。宇宙という屋外から見る地球体験が地球への愛着とかけがいのない地球への思いを深め、思いがけないところからSDGs を推進させる夢をもたらす。外からのまなざしを尊重しつつ今は内からはじめよう。

 

「観光的なるもの」の新たな展望を  橋本和也(観光学術学会・前会長)

1.観光者としての心構え(互酬的歓待):われわれ一般人は、「そと」で一時的な観光者となっても、「うち」では普通の生活者に戻る。「うち」と「そと」は表裏一体である。コロナ禍の現在もポスト・コロナ時代においても、観光者は自らの「楽しみ」のために地域(そと)を消費・搾取することなく、(うちに留まる)地域の人々に出会いの「喜び・楽しみ」を提供する存在とならねばならない。

2.政策立案者へ:一般生活者にとって「観光」は生きるための「生活必需品」である。リスク回避の工夫を凝らしたうえで、「そとへの移動」が一般生活者に仲間との「密接・親密」な「おしゃべり・雑談」の機会を保障することに配慮した政策立案が必要である。

3.研究者へ:そして、「観光的なるもの」は外出自粛状況下においても新たに出現する。その現れ方(オンライン里帰り・食事会・飲み会やヴァーチャル観光)に注目する研究が求められている。

 

「近隣観光」の推奨  神頭広好(日本観光学会・会長)

公共交通機関(電車やバスなど)を利用する際、新型コロナウイルスは気になるが、車中において適切な間隔を空けて、短い乗車時間で行ける観光地を選択すれば、宿泊観光の交通費年間予算13,500円(2019年)で近場の観光を何回も楽しむことができる。また移動時間が短くなれば、滞在時間を長くすることもできる。旅行の予算制約のもとで旅行を考える際、近場の魅力ある観光地を探して、リピーターになれば、そこを探すことの満足感と同時に目的地での満足も得られ、さらに歴史、風土などを通じて新たな発見が生まれる。インスタグラマーによって情報が発信されている現在では、私たちがインスタグラマーとなりえる。

それゆえ新たな発見という意外性をも含む「近隣観光」は、新型コロナ禍の観光において、観光地の需要・供給・公共サービスをバランスさせる自動安定装置の役割を果たしているのである。

 

提言   小畑力人(観光ホスピタリティ教育学会会長)

観光関連分野の教育研究者にとっても、これまで経験したことのない事態が続いています。しかし、その未体験・未知の世界にこそ「無数の研究テーマが綺羅星の如く瞬き始めている」との捉えが大切だと思います。コロナ禍のもとでのリモート疲れもあります。しかし、一歩を踏み出す。それが、研究者の責務だと思います。勿論、万全なコロナ感染対策を前提にした、苦悩する観光の現場の課題解決の方向を切り拓く、リモートとリアルを組み合わせたアプローチが求められていると考えます。

一方、この間はリモートでしか繋がらざるを得なかった学生とのリアルな“絆”の回復を視野に入れた観光ホスピタリティ教育の新たな展開を描き準備しなければなりません。今、Zoom授業で目の当たりにする学生たちはSociety5.0の世界を担っていきます。先に述べた研究のアプローチにしても、新たなホスピタリティ教育も、アフターコロナの世界の教育研究を彷彿させるものです。これは、Society5.0のいうサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させるものです。Society5.0が実現する社会、5G、IoT、AIがコロナショックによって“急接近”しました。NHKの人気番組ではありませんが、「ボーっと生きてるわけ」にはいきません。

 

「e-ホスピタリティ」と「伝統的もてなし」の融合で、日本の観光の魅力を発信しよう。大江靖雄(総合観光学会・会長)

コロナ禍は、人と人との交流が不可欠な観光とホスピタリティ活動に大きな転換を強いる事態となりました。現在、非接触型のもてなしのあり方が問われています。デジタル技術を活用したホスピタリティを、これまでのもてなしと、うまく組み合わせることで、こうした新たな時代的な要請に応えることができます。このデジタル技術を活用したホスピタリティを、「e-ホスピタリティ」と呼びます。デジタル化したコンテツで地域の魅力を発信、標的層への訴求、モデル的滞在プランの提示、宿泊予約、地域産品の販売、地元の人々と訪問者との事前事後の交流など、そのカバーできる範囲は大変広く、地域の魅力発信のみならず、こうした業務の省力化も可能となります。そこで、「e-ホスピタリティ」と「伝統的なもてなし」の補完関係を前提にした、両者融合による地域の魅力発信力強化を提言します。

 

観光経営新時代へ向けて  石崎祥之(観光経営学会・会長)

コロナ禍によって甚大な影響を被っている観光業において今求められているのは、この苦境からいかに早く回復するかという問題への対応であり、その意味では「復旧」ではなく「復興」が重要であるといえよう。経営的に言えば、10%の効率改善であれば、従来のやり方を工夫するだけで目標は達成されようが、今、求められているのは例えば30~50%もの効率改善である。そのためにはやり方そのものを変えるしかない。同じく大きな影響を受けている介護の現場では効率改善と感染防止のためにロボットの導入が急速に進んでいる。観光も、「接触を回避しつつ」「ホスピタリティを実現し」「効率も改善する」という一見すると矛盾した課題を同時に達成するために、従来の常識を覆すようなビジネス・モデルの構築が求められているといえよう。