21世紀も、10年ほど経て、観光学の学問的樹立が改めて大きな課題になっている。特にわが国の場合、これまで観光研究は量的増加に終わっていて、その真髄となる理論的研究では、世界的にみて脆弱性があったことを否定できない。ここに、観光の実践業務でもいわれるほどの成果を挙げていない原因の1つがあるという声もある。このことは、他の学問分野を見れば、はっきりしている。理論は、確かに実践から生み出されるが、理論は実践を推進する槓桿となるものである。
この時にあたって、観光の理論的研究を主軸とする『観光学術学会』が発足する意義は大きく、本学会に課せられた責任は重大である。本学会では、若手研究者の育成をモットーの1つとしているが、この点については、理論の推進は、いうまでもなく、その担い手の育成のいかんに依存することを特に強調しておきた。観光関係においても、優秀な人材の育成に最も必要とされることは、なんといっても、観光関係専門的な教育機関の発展・充実であり、現在のわが国の場合、特に大学院、とりわけ博士課程の充実が特別に強く望まれるのである。わが国では、この点でも、他の諸国とくらべてかなりの立ち遅れがあり、その急速なる克服が喫緊の課題であると考える。
ちなみに、観光研究で世界的に著名なイギリス・サリー大学のトライブ教授によると、同国では観光に関するドクター論文は、1990年から2002年の間に8倍以上になっている(注)。これが、同国の観光教育に対し大きな推進力なっている。本学会の活動も、実際には、こうした大学はじめ各種高等教育機関の活動・発展・展開を土台にするものであることを改めて痛感する。本学会の発足にあたり、大学院を含めた観光関係高等教育機関のさらなる発展・充実を心から希望する次第である。
(注:Tribe,J.(2007),A Review of Tourism Research, in: Tribe and Airey(eds.), Developments in Tourism Research, p.5)
平成24年2月26日
観光学術学会 初代会長 大橋昭一